スッポンといえば「浜名湖」、昔から日本一の生産地ですが、現在は九州地方でも数々の産地が出現しています。スッポンは温暖な淡水の沼池に生息していて「鶴は千年、亀は万年」と言われるように、その生命力の強さから、古くから滋養強壮の食として知られていました。生き血を飲んだり、動いている心臓を食べたりと、食というより薬となっていました。地元でも生き血を飲みに行く人々がおりました。
浜名湖の東岸の舞阪町に明治時代から続く服部中村養鼈場があります。広大な露地の養殖池があり、スッポンを飼育して各地に出荷しています。グロテスクな姿とは裏腹に天然ものは、のど越しが良く、香りもこくもあり上品な味わいで高級料理店しか扱わないものでした。舞阪町のこの養殖池では限りなく天然に近いスッポンに育つように努力されておられます。

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服部中村養鼈池の創始者 |
養殖池 |
さて、平成9年浜松商工会青年部より「地域の特産物を使ったお料理をインターネットのホームページに掲載したいので協力してください」との依頼がありました。県でも地域でも初めての試みでした。指示された素材は
8月 ピオーネ、お茶、ドーマン
9月 うなぎ、チンゲン菜、次郎柿
10月 青葱、しいたけ、車海老
11月 パセリ、エシャロット、スッポン
12月 セロリ、牡蠣、みかん、青海苔
の16種でした。
「ホームページ用お料理紹介」の用紙には次の5項目を書き込むことになっていました。
- 料理名
- 料理の特徴
- 使用材料
- 調理方法手順
- ワンポイントアドバイス
です。私は指示された16種の素材を使って21枚の用紙のすべての項目に記入し21品の料理を作りました。青年部の方達は出来上がったお料理をカメラで撮影していました。しかし当時は新聞社への原稿は400字詰め原稿用紙と白黒の料理写真を持参していました。また、新聞社でも手書きからパソコンになりつつある時代で電話連絡はポケベル。ケイタイ電話はまだでしたから、商工会へ提出したものの、インターネットへのお料理の掲載は特にむずかしかったと思われるのです。

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すっぽん |
この仕事の中でパセリ、エシャロット、セロリ、青葱などは添え物や香辛料なので主菜にするのに苦労しました。又、ドーマンやスッポンなどは素人には入手困難なので、ドーマンは入手した時点で茹でて皿に盛って写真にしておきました。スッポンは缶入りのスッポンスープを煮立てて椀に盛り、白髪葱とおろし生姜を添えて仕上げました。ところが、何故生きたスッポンを使わないで、缶詰で調理するのかが理解できないようなので、青年達と一緒にスッポンの勉強をすることに致しました。
幸い、北高7回同期の服部彰夫氏が服部中村養鼈場を経営しておられましたので早速連絡をとり見学させて頂くことに致しました。お訪ねすると、快くお部屋に迎えられ、スッポンについていろいろ教えて頂きました。その中でも特に良質なスッポンを飼育する3条件が心に残りました。血統の良い親から生まれた①稚ガメに②良いエサを与え③美しい環境を保って「じっくり時間をかけて成育しなければならない」ことなどです。弟様には露地の養殖池の御案内を頂きながら、池の水質管理やスッポンの出荷について伺いました。「スッポンは8月頃に稚ガメを露地池に入れると10月中頃から四月頃迄冬眠し、冬眠からさめるとひたすらエサを食べ、再び秋には冬眠に入る。これを3~4年間くり返して、出荷は冬眠に入る前の9月~10月頃」とのことです。池から帰ると生きのよいスッポンと調理人が用意されていて、スッポンのおろし方の実技を見学させて頂きました。ここまできてやっと食い付かれたら離れないと言われるスッポンの調理は、素人には無理なことを知った訳です。一通り見学が終った頃にはお部屋に「*まる鍋」が用意されていて、熱々を美味しく頂きました。そして帰りには沢山のお土産まで頂き、至れり尽くせりのお持て成しに与り恐縮致しました。
商工会から出された素材はその時季の特産品ではありましたが調理に不向きなものもあり、大変むずかしい課題であったと思いました。

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甲羅干し |
産卵場 |
スッポンは秋から出荷されます。重陽の節句(敬老の日)に、スッポンを扱うお料理屋さんに予約して、この長寿の薬を鍋やおじやで頂くことに致しましょう。 |