お雑煮

お正月を迎える準備をします。
年月日の元(はじめ)を三元(さんげん)といい、三元の日の朝が元旦です。
元旦には年神様をお迎えします。この神様は力の強いお米の神様で私達に生きる力を与えてくれます。この神様をお迎えするには暮れの内に家の中、外回り、神棚やお仏壇のお掃除をしなければなりません。お正月様とも呼ばれるこの神様はきれいな家に訪れるといわれています。

ここからは我流です。
まず神社に行って「分け御霊(みたま)」のお札を頂いて参ります。お札は天照皇大神宮様と年神様と氏神様、それにえびす様・大黒様が一セットになっています。家庭の簡素な祀り方なのですが神棚の宮形のお社に皇大神宮様を前面にして年神様、氏神様の順におさめてお祀りします。えびす様と大黒様はお台所にお祀りします。神棚には榊、しめ縄、鏡餅の他に、三方の上に洗米、お神酒、水、塩をのせてお供えします。丁寧な御家では野山・畑・海の幸もお供えします。
大晦日、年の夜には神前に炊きたてのご飯をお供えし、1年間いただいたお米(御年様)に感謝し、来る年の豊穣と平和を祈念します。 若年神
元旦には若水と幣(ぬさ、小さく切って煮たお餅)を神棚にお供えします。その他に、かまどの神様(荒神様)、井戸神様(水神様)、地の神様にも幣を供えます。元旦には家族10人が揃い、神前で「二礼、二拍手、一礼」して膳につき、小さい順にお屠蘇を頂き、「おめでとうございます」の御挨拶をして新年をことほぎます。
お雑煮は鏡餅を作った後のお餅をのして四角に切ったものと神前にお供えした神饌(しんせん、大根・里芋・青菜・鳥肉・海老など)をお下がりして(直会、なおらい)調理したもので、神様と一緒に頂きます。これを神人共食といって柳箸でいただきます。柳の木は折れにくいことと家内喜(やなぎ)という意味があります。この柳箸は両方の箸先が細くなっていて一方が神様が使い、もう一方で私達(人間)が使って祝膳を頂くことになっています。
雑煮に入れる里芋は稲作以前の日本人の主食で、今も大切な保存食としてお祝いの膳に供されます。大根は真白で清浄、潔白を意味しお祝いの「膾(なます)」などに使われます。冬の大切な野菜でジャスターゼが含まれ、お餅の消化を助けます。
青菜を入れるのは菜(名)を上げるという意味で名誉を重んじます。
上に鰹節をかけるのは勝武士の意味。更に1四万十川の青のりを振りかけるのはこの地方の雑煮の特徴です。関ヶ原合戦後の1601年、掛川城主2 6万石から土佐の高知3 24万石に栄転した山内一豊の出世にあやかってのことでしょうか。
いずれにせよ、お正月には縁起の良い食材や語呂合わせをしてハレ食に致します。日本人ってウイットに富んでいて又風流ですね。
写真のお雑煮は伝統を踏まえた現代風のものです。清汁仕立で椀の中には亀里芋、鶴大根、水菜、鶏肉、養老海老、日の出かまぼこ、角切り餅二つ重ねの七種を盛り込みました。小鉢には削り鰹と*1この地方独特の青のりを入れて添えました。

*1 暮れになると「しまだのり」という商品名で店頭に並びます。細い糸状ののりで焦げやすいので熱したフライパン等の余熱であぶり包装紙等の上で両手でもみもみして細かくして使います。
2 正確には59000石
3 1603年に徳川家康が征夷大将軍になった後は、家康から高知城主、山内一豊に20万石が与えられた。

下に掲載のおせち料理の写真は今年のお正月のもので、暮れの30日に私が一人で作り、31日に孫が詰めてくれたものなので雑然としています。長男と次男の家の二番目の子供達が大学と高校入試を控えていましたのでお手伝い無し。毎年はお嫁さん2人、孫4人で賑やかに作る年中行事なのですが、一人ではこんなところです。
床飾りも入野のお年寄りが作れなくなり、仕方なくスーパーのもので間に合わせました。
いけ花は庭のろう梅や千両を使い、少し買い足した我流の「投げ入れ」です。大晦日と元旦に十人家族のもてなしは目が回る程忙しいのですが、とても嬉しいことです。
 
喜田芳子懐石料理教室
喜田芳子懐石料理教室
祝い肴三種(一の重)
 
  鶴の子芋
材料(6人~12人分)
  京芋(海老芋)
・・・
500g
 
だし
・・・
3C
 
・・・
大4
  みりん
・・・
大3
  砂糖
・・・
大3
 
・・・
小1
  薄口醤油
・・・
大1と1/2
 
① 芋の皮をむき、厚さ4cmの輪切りにし、五角形に切って鶴の子に切る。
② ゆでこぼして温かいだしに入れ、酒、みりん、砂糖の順に入れ塩、醤油も入れて含め煮する。

 
  亀甲椎茸
材料(6人~12人分)
  干し椎茸
・・・
12枚
 
椎茸戻し汁
・・・

適量

  砂糖
・・・
大3
  醤油
・・・
大3
  みりん
・・・
大1と1/2
 
① 干し椎茸は前の晩、水に浸して戻し、石突きを取って亀甲に切り、戻し汁で煮る。
② 柔らかに煮えたところで砂糖を加えて煮て、順次調味料を加え煮つめる。
 
     ねじり梅
材料(6人~12人分)
  京人参
・・・
1本(200g)
 
だし
・・・
2C
  砂糖
・・・
大1と1/2
  みりん
・・・
大2
 
・・・
小3/4

 

① 人参は1、5cm厚さに輪切り、梅型にする。
② だしで少し煮て、調味料を加えて柔らかく煮る。
 
  矢羽根蓮根
材料(6人~12人分)
  蓮根
・・・
1節
 
・・・
1C
  だし
・・・
1/2C
  砂糖
・・・
1/2C
 
・・・
小1
  赤唐辛子
・・・
1本
 
①大きなままの蓮根を1cm厚さの斜め切りにする。(45度の傾斜にしないと、矢羽根がきれいに出ないので、45度に包丁を入れる)
② 皮をむいて薄い酢水に浸ける。そのまま火にかけて透明感が出るまでゆでる。
③ 縦2等分にし、切り口を上に向けて合わせ矢羽根の型にする。
④ 甘酢を煮溶かして冷まし③をつけ、赤唐辛子を散らす。
 
  たて豆腐
材料(6人~12人分)
  高野豆腐
・・・
3枚
 
だし
・・・
2C
  砂糖
・・・
大5
  薄口醤油
・・・
大1と1/2
 
・・・
小1/3
 
・・・
大1
  ① 鍋に5カップの水を入れ、沸騰したら火を止めて水1カップを加える。
② 高野豆腐を3枚入れ、直ちに裏返して落とし蓋をする。
③ ぬるま湯になったら手を入れて、そっと押すと白水が出る。この白水を捨てて水を入れ、再び押して白水をこぼす。
そっと、しっかり絞って4つに切る。
④ 調味した旨だしで15分静かに煮含める。
⑤ ④を取り出して、直火で焼いた金串で表面に2本の焼き目をつける。
 
祝い肴三種(一の重)
  紅白なます
材料(6人~12人分)
  大根
・・・
500g
  京人参 
・・・
1/4本
  甘酢    
 
・・・
大5
  砂糖
・・・
大3
 
・・・
小1/2
  柚子の皮
・・・
少々

 


① 大根は握りよい大きさに切り「なますつき」ですり鉢の中につき入れる。あるいは細い千切りにする。
② 人参も同様にして、大根と別々に塩もみして洗う。ざるに取り、かたく絞る。
③ 調味料をかけて混ぜ、千柚子を散らす。柚釜に盛る。
 
  (このしろ)の卯の花漬け
材料(6人~12人分)
  鰶(このしろ)
・・・
6匹
  塩 
・・・
大3と1/2
 
・・・
適量
 
おから
・・・
3C
砂糖
・・・
大2
みりん
・・・
大1
 
・・・
小1/2
 
・・・
大2
  赤唐辛子
・・・
2本

 

① 夕方、三枚におろした鰶(このしろ)に両面塩を振りバットに入れて暫く常温に置き、冷蔵庫に入れて一晩置く。
② 朝、魚を酢洗いして再びバットに並べ魚にかぶるくらい、ひたひたに酢を入れて昼まで置く。
③ おからは豆かすを取り去り、きめ細かくする。まず洗い桶に水を張り、ザルの中におからを入れて指でほぐしながら桶に流し出す。桶の白水を布袋に入れて絞る。(小豆のこしあんを作る要領)

④ 大きめの鍋に③を入れてしゃもじでいって火を通す。調味料を入れてさらさらしてきたら火を止める。冷ましておく。
⑤ 魚の片身を4つにそぎ切り、おからと交互に重ね重箱に詰める。
⑥ 赤唐辛子は水につけて種を抜き、細い輪切りにして散らす。
 
  スモークサーモンの砧巻き
材料(6人~12人分)
  大根桂むき7cm×10cm
・・・
12枚
  三杯酢
 
・・・
大2
  砂糖
・・・
大1
 
・・・
少々
  サーモン
・・・
12枚
  三つ葉
・・・
適量

 

① 大根は桂むき、立塩につけて、しんなりしたら三杯酢に漬ける。
② 大根とサーモンを重ねくるくると巻き、ゆでた三つ葉で結ぶ。
〜小話〜
喜田芳子
(平成23年1月2日撮影)
今年のしめくくりです。
日本は春・夏・秋・冬の四季がはっきりしており、その季節の変わり目のことを節句といいます。1年間、この節句や年中行事、祭りなどについて大まかに触れてまいりました。
お年寄りが「盆と正月が一緒に来たようだ」と表現することがありますが、これはとても御馳走が出た時の嬉しい言葉です。反対に「なまけ者の節句働き」という言葉は悪いたとえです。
節句の日はハレの日で仕事を休んで節句や行事にちなんだハレ食の御馳走を作り、神に供え、神と共にそれを食し、神と共に安らかに過ごす祈りの日なのです。 今年の大災害をかえりみるにつけ人間があまりにも便利を追求して科学万能に走りすぎ、自然との共存を忘れていたのではないかと思われてなりません。古人が崇めてやまなかった天(おてんとうさま)、大地(地の神様)、月(おつきさま)、水(水神様)、火(火の神様)、地球におわす八百万の神々に手を合わせ、この自然の猛威(天変地異)をお鎮め下さるようお祈りしたいと思います。

少しお休みを頂きまして、来年は、私の生まれた年(昭和11年)出版の料理本の中からめずらしいお料理や面白いいわれなどをぼつぼつと掲載できたらと思っています。

御覧頂きました方々にお礼を申し上げます。
よいお年をお迎え下さいませ。