新34回卒の藤本(旧姓平山)久実子です。私達新34回卒生は2010年にせまった同窓会総会を目指して、少しずつ始動して います。皆様の暖かいご指導、ご支援、よろしくお願いします。(女性パワー、大事ですよね。)
私が医学生の頃、「将来何科の医師になりたいか?」と問われて「麻酔科」という新入生は皆無でした。(あ、後輩にひとりいたっけ。彼は某大学の麻酔科教授のご子息でした。)
最近は医療系のドラマや映画などもリアルで、麻酔科医も主役級で登場したりします。(なかなか「理想の麻酔科医」には出会えませんが。)ニュースでも「医師が足りない」筆頭に産婦人科医や小児科医とならんで、たびたび麻酔科医が登場します。
皆さんは「麻酔科医」ってどんな仕事をしていると思いますか?
第1の仕事はもちろん、手術時の「麻酔」です。単に「麻酔をかける」だけでなく、周術期(術前、術中、術後)の全身管理を行います。(残念ながら、すべての手術の麻酔を担当するには麻酔科医は不足しているため、麻酔科医によらない「各科麻酔」が存在します。)
麻酔時の各種ブロックの手技や鎮痛薬などの知識を生かして、「ペインクリニック」(痛みの治療)も行っています。(ペインクリニック医の多くは麻酔科出身です。整形外科など他科からの先生もいらっしゃいます。)
麻酔時の全身管理の知識を生かしての「集中治療」や「救急医療」などに携わっている麻酔科医もいます。(集中治療医や救急医は、最初からその分野の専門家の先生も多いですし、他科出身の先生も多数いらっしゃいます。)
私自身は、現在、聖隷三方原病院麻酔科勤務で、「ペインクリニック」外来の担当(月曜日午前)と「麻酔」の仕事をしています。
今回、まだまだ一般的に知られていない「ペインクリニック」の話もしたかったのですが、「麻酔」についても、ぜひ知っていただきたいことがありますので、聖隷三方原病院が発行している「みどりの通信」に掲載した文章を再掲させていただくことにしました。「みどりの通信」は聖隷三方原病院内で無料配布しています。バックナンバーは聖隷三方原病院のホームページに掲載されてます。(『トピックス』の中にあります)毎号、各科や各部門の専門家が最近のトピックスなどを掲載していますので、よろしかったらご覧下さい。
http:// www.seirei.or.jp/mikatahara/
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知っておきたい麻酔の話 〜長期的術前準備が大切です〜
麻酔科医が管理する手術の前には麻酔科医による術前診察を行いますが、多くは手術の前日です。予定手術をより安全に受けていただくためには、手術が決ったら(麻酔科術前診察の前から)すぐに、ぜひ、患者様ご自身に事前に準備していただきたい事があります。
1)歯
全身麻酔の場合、麻酔薬の影響で自力では充分呼吸が行なえない状態になります。そのため,気道確保といって器具を使用して喉に管を入れ、必要なら人工呼吸を行ないます。意識がなくなってから行なうので苦痛はありません。しかし、口が充分開かなかったり、ぐらついたり弱い歯があると、うまく管が入らず、呼吸の補助ができず、危険性が増します。歯が折れて気管に入れば異物摘出術が必要になります。気道確保は救急蘇生時にも行ないますので普段から歯の手入れは充分しておきましょう。
2)禁煙
喫煙が各種の癌や心疾患・肺気腫などの原因や誘因になることは有名ですが、麻酔にとっても大敵です。全身麻酔後には痰が増加し、充分排出しないと肺炎の原因になります。喫煙者は普段から痰の量が多く、排出も困難になっています。痰の量、排出困難は2週間程度の禁煙でかなり改善します。また、麻酔中は酸素不足の状態になりやすく、その予防のために酸素の投与を行ないます。喫煙者の血液は普段から軽い一酸化炭素中毒と同じ状態になっており、酸素を運ぶ予備力が落ちて身体の隅々では酸素欠乏ぎみになっています。一酸化炭素中毒状態は24時間禁煙すれば解消します。喫煙により血管収縮を起こすため、心筋梗塞などの危険性が高まります。手術直前の喫煙は言語道断です。禁煙は周術期の合併症を自ら確実に減らせます。ぜひ、手術を機会に禁煙して下さい。
3)予防接種
全身麻酔をすることによって、免疫力が落ちると言われています。予防接種は、ワクチンにより軽く感染させて抗体を作る事によって発症を防ぎます。予防接種直後に全身麻酔を受けると「軽い」感染のつもりが発症してしまったり、予定通りの抗体産生が行われずに免疫がつかなかったりという事が起こる可能性があります。生ワクチンで4週間、不活性化ワクチンで2週間以内の予定手術は避けた方がよいでしょう。詳しくはご相談下さい。
4)合併症、常用薬
手術麻酔時には日常生活以上に身体に負担がかかります。高血圧、心疾患、喘息などの呼吸器疾患、糖尿病などの治療の具合によって、周術期のリスクが高くなることがあります。日常生活で支障がなくても、手術時には危険という状態もありますので、主治医に手術を受けることを相談しましょう。手術を受けるために入院しても、他の病気の治療のために使用していた薬は継続されます。ただし、手術を受けるためには不都合な薬があります。代表的なものとしては、抗凝固薬(血液をさらさらにする薬)では手術時の止血が悪くなる、ピルなどのホルモン剤では長期臥床による血栓の危険が増える、などがあります。術前に数日から4週間程度の休薬が必要になりますので、手術を決める前に現在治療している病気と使用薬剤(サプリメントも含め)をお知らせ下さい。
(みどりの通信2008年2月号より)
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せっかくなので、ちょっとした「つぶやき」を…
*咀嚼(食べ物をかみ砕くこと)は脳を活性化すると言われてます。認知症(痴呆)傾向のある方は入れ歯が合っていない傾向があるのは、ぼけているから入れ歯が合わせられないのか、入れ歯が合っていないか らぼけてしまうのか…。
*気道確保のための「気管挿管」は救急現場でも有力な救命行為です。救命率を上げるため、救命救急士が「気管挿管」を行える様になりました。もちろん、「やっていい」と言われてすぐにできることではありません。救命救急士の資格がある方が、さらに研修を積み、人形での練習をした後、病院で安全に落ち着いてできる環境で「実習」を積み重ね(30例)、やっと現場で行うことができます。その「実習」を全身麻酔時に行わせていただいています。麻酔指導医が必ず立ち会うので、危険はありません。「全身麻酔で手術を受ける」だけでも大変なことだとは思いますが、ぜひご協力をお願いします。
*世の中「禁煙」「分煙」が進み、昔ほど「受動喫煙」の機会は多くなくなったと思いますが、「受動喫煙」でも喫煙による不都合は起こります。喫煙による肺気腫は、程度の差こそあれ、必ず起こり、禁煙することにより進行を止めることはできますが、改善は難しいです。術前の呼吸機能検査で肺気腫傾向がある方の中には長年の「受動喫煙」(多く は家族)の影響だろうと思われる方がいらっしゃいます。
*先日の学校公開日に北高生の授業の様子を見せていただきました。ちょうど保健の授業で「医薬品と健康」の講義が行われていました。高校時代に教わったことを大人になっても覚えていてくれるといいですが…。術前診察をしていて、ご自分の飲んでいる薬が何であるか、何のために(病名)飲んでいるのか、理解していらっしゃらない方が時々いらっしゃいます。(院外薬局で「薬の説明書」を発行することもあり、以前よりは減りましたが)今は「おまかせ医療」の時代ではありません。かといって、勝手に処方された薬をやめてしまったり(せめて、「飲んでいない」と処方した医師に言って下さい。)他の人にあげたり……絶対やめて下さい。もちろん、理解した上で、ご自分で調整できる薬もあります。
*術前だけでなく、医療機関にかかる時には、既往症(いままでどのような病気をしたか、手術などを受けたか)、合併症(現在治療している病気、もちろん処方内容)、アレルギー(薬、食品など)の有無、最近の健康診断の結果などをまとめておいていただけると助かります。術前の場合には手術を受けた時の麻酔方法や不都合なことがなかったか、血縁者に麻酔による重篤な合併症を起こした方がいらっしゃらないかを聞かれます。想定したくはありませんが、緊急で手術を受ける時にも情報は多ければ多いほど安全につながります。
ついついしゃべり過ぎました。皆様の何か役に立てれば幸いです。 |